カテゴリー別アーカイブ: 生物兵器禁止条約

英国ウイルトンパーク報告書:意図的生物剤撒布への対応

国際会議”意図的生物剤散布への対処:効果的で調和された国際的な行動のための要件”
Responding to deliberate biological release: the requirements for effective, coordinated international action 報告書

近年、生物兵器禁止条約(BWC)の中でも第7条が定める「発生時の支援」に関連する議論が活発になっている。第7条の実施強化は,2012-2015の会期間活動の中でも、2014・2015年の2カ年議題として取り扱われてきた。さらに、シリアでの度重なる化学兵器の使用は、効果的な国際的支援の困難さを浮き彫りにするとともに、事前準備の必要性が認識された。期せずして発生した2014-2015年の西アフリカのエボラウイルス病アウトブレイクでも国際社会の準備不足を露呈した。第7条を実施するにあたっては、さらに様々な関係機関の協調的活動には困難が予想され、現実的な法的、ロジ、運用等課題があることが認識されている。

すでに2016年にWilton Parkではエボラ対応の教訓について会議が開催され検討がなされており、これが意図的な散布であった場合には非常に状況が複雑になることはすでに指摘されている。第8回BWC検討会合でも議論されたが具体的な合意には至らなかったものの、「対応能力が事前に必要」と述べ、会期間活動で指摘された必要要件を強調している。グローバルパートナーシップのバイオセキュリティWGやGHSAのパッケージの対応2でも優先事項となっている。

9月末に行われたこの会議は、これらの取り組みを支援し、国際的な対応協調がどうすれば効果的になるか、実務志向の明確な提言を作成するために行われた。本会議は英国外務省の執行組織であり、安全保障領域を含めた数多くの国際会議をホストするWilton ParkとGlobal Affairs Canadaとジョージタウン大学グローバルヘルス科学・安全保障センターの共催により行われ、このたび、その報告書がウェッブに公開された。

意図的生物剤撒布に対しては、感染症アウトブレイクの多様性、主担当となる国際機関の欠如、多数存在する関係者の役割や責任が定まっていない、BWCにおける対応調整能力の欠如、第7条に基づく支援要請プロセスや支援内容が不明確であること、軍の役割に関する懸念(エボラの発生時に軍がアウトブレイクの支援に出ていた事例があるが、そのような「自然発生」と考えられている状況が「意図的撒布の疑いあり」という状況に変わった時、その場に居る軍隊は微妙な立ち位置に立たされる、という懸念)、対応手順(SOPs)の欠如など、様々なチャレンジが存在していることを指摘し、専門家や関係機関によるワーキンググループを組織し、これらの解決策を検討すべきと提言している。また、公衆衛生と法執行機関の情報共有や、各国の既存のCBRN対応手順の国際対応への応用、chain of custodyを維持しながらの検体のパッケージングや輸送手順の整備等を提言している。

Responding to deliberate biological release: the requirements for effective, coordinated international action (WP1556)

2017年BWC締約国会合開催

2017年12月4日から8日にかけて、生物兵器禁止条約(BWC)の締約国会合が開催された。会合では、2021年の第9回運用検討会議に向けて、会期間プログラムをどのように進めるかということに焦点が当てられた。議論を通じて、2018年から2020年にかけて、締約国会合に加えて、専門家会合が開催されることとなった。専門家会合で話し合われる議題は、下記の5つである。

  1. Cooperation and assistance, with a particular focus on strengthening cooperation and assistance under Article X(第10条に基づく国際協力・支援)
  2. Review of developments in the field of science and technology related to the Convention(科学技術の進展のレビュー)
  3. Strengthening national implementation(国内実施強化)
  4. Assistance, response and Preparedness(支援、対応、事前準備)
  5. Institutional strengthening of the Convention(条約の制度的な強化)

Meeting of States Parties (4-8 December 2017)

UNOG Saturday, December 9, 2018

https://www.unog.ch/unog/website/disarmament.nsf/(httpPages)/9E2CF761A08A5E68C12581EE00318FA5?OpenDocument

BWCの課題について

1975年に発効した生物兵器禁止条約(BWC)は、国家、テロ組織、あるいは個人による生物兵器の開発、生産、備蓄などを防ぐための重要な役割を果たしてきた。しかし、現在、財源や会期間プログラムの方向性をめぐって、さまざまな課題を抱えている。

BROOKINGSに掲載されている記事では、(1)現在、滞納されている分の支払いを含む、締約国による充分で持続可能な財源、(2)国際社会におけるBWCの重要性を再確認し、会期間プログラムを開発するための強いリーダーシップと12月の締約国会合での成功、(3)より大きな相互接続するグローバル安全保障アーキテクチャーにおけるBWCの役割を明確にするためのビジョン、という3つが必要と指摘されている。

The Biological Weapons Convention at a crossroad

BROOKINGS Wednesday, September 6, 2017

https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2017/09/06/the-biological-weapons-convention-at-a-crossroad/

生物兵器禁止条約専門家会合2015 の議論に見るバイオセキュリティの動向

本論文は、以下の論文を日本バイオセーフティ学会より許可を得て転載しています。
齋藤智也. 会議参加報告 生物兵器禁止条約専門家会合2015の議論に見るバイオセキュリティの動向. 
Meeting Report: Trends in Biosecurity: Report from Biological Weapons Conventions 
Expert Meeting 2015. JBSA Newsletter. 2015;5(3) : 35-38.

会議参加報告

生物兵器禁止条約専門家会合2015 の議論に見る
バイオセキュリティの動向

齋藤 智也
国立保健医療科学院健康危機管理研究部

はじめに

細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約(通称「生物兵器禁止条約」、以後BWC とする)は生物・毒素兵器を包括的に禁止する唯一の多国間の法的枠組みである1)。5 年毎に開催される締約国による運用検討会議のほか、近年は、「会期間活動」として、専門家会合と締約国会合を毎年開催し、条約の実施及び強化のために必要な方策について議論を行っている。筆者は、今年8 月にジュネーブで開催された専門家会合に参加し、口頭発表2)及びポスター発表3)を行ったので、この場を借りて会議概要を報告させていただきたい。

2015 専門家会合の背景

今年は第7 回運用検討会議(2011)の決議に基づく会期間活動(2012 〜2015) の最終年である。BWC は、条約遵守を検証する手段に関する規定が不十分であることから、条約を如何に強化するかが課題とされている1)。そのため、「会期間活動」として、専門家会合と締約国会合を開催し、2003 年から様々な分野の議論が継続的に行われ、条約の履行・強化につながる具体的な方策について共通理解の醸成を目指している。軍縮的コンテクストでの議論が中心の場ではあるが、近年は事態発生後の公衆衛生対応等を含めたより幅広い領域に議論が拡大している。その理由として、第一に、生物剤は剤の管理が困難であり、民生用途と境界が曖昧でもあるため、ボトルネックとして管理可能なポイントが存在しないことが挙げられる。さらには、生命科学の急速な進展による技術的進歩の悪用への懸念がある。科学の発展とその利益の享受を妨げず、内在する「デュアルユース性」のリスク管理を行うアプローチとして、「予防の包囲網(Web of Prevention)」という観点から、事態発生後の公衆衛生対応までを含めた、関係者も幅広く設定したリスク管理の考え方が共有されている。その議論のスコープの中には、当然「ラボバイオセーフティ・バイオセキュリティ」も入っている。
専門家会合は、締約国のみならず、様々な関係主体にも門戸を開いていることが特徴的である。締約国や、関係国連機関、国際機関のほか、NGO らも議論の傍聴が認められている。また、本会合の合間にポスターセッション、サイドイベントも開催され、様々な情報発信が行われている。筆者は2008 年、2014 年に続いて3 回目の出席となったが、「生物兵器対策」という観点で、各国の最新の取組みについて、予防的観点から公衆衛生対策まで幅広く意見交換ができるため、学会などとは異なる重要な情報共有プラットフォームであると感じている。2012 年〜2015 年は、常設議題として「国際協力・支援」と「科学技術進展のレビュー」「国内実施強化」を置いている。ほか、2014/2015 年は「条約第7 条(生物兵器使用疑惑の際の防護支援)実施強化」が議題となった。
専門家会合・締約国会合は、非同盟運動(Non-Aligned Movement ; NAM)、東ヨーロッパグループ、西側グループの代表が議長・副議長を交代で務めることになっており、本年はNAM のマレーシアのジュネーブ政府代表部大使が議長を務めた。

2015 専門家会合の主な議論

昨年から今年にかけての西アフリカにおけるエボラウイルス病への対応経験は、まさに今年度の議題「国際協力・支援」「第7 条の実施強化」に教訓を与えるものであり、関連する声明が数多く聞かれた。この専門家会合の直前にも、国連軍縮研究機関とBWC 履行支援ユニットの共催による「生物兵器禁止条約へのエボラアウトブレイク対応からの示唆と教訓」4)という会合が開催されている。ここではエボラ流行での経験を踏まえ、意図的な生物剤散布が行われた状況下での支援を想定した議論を行っている。議論では、原因究明や対応支援における、軍と公衆衛生対応者の関係や指揮命令系統のあり方、医療従事者のセーフティ・セキュリティ、国際機関とNGO の関係性などが指摘された。また、生物兵器禁止条約には、支援すべき役割はあるとしてもその対応キャパシティや指揮命令系統機能は事実上有しないというギャップも認識された。
そのほか、ロシアによる議定書(法的拘束力のある条約の補完文書)作成に関する交渉再開提案や、第8 回運用検討会議に向けた発言といった重要な話題もあったが、条約そのものに関する外交交渉的要素が強い内容であるため、ここでは割愛する。
例年通り、多数のサイドイベントが開催されたが、そのタイトルと主催者を表1 にまとめた。中でも、オランダのバイオセキュリティ強化に関する一連の取組みに関する報告は興味深かった。ラボの脆弱性評価ツールの開発など、ラボバイオセーフティ・セキュリティ関係者にも関心の高い取組みであるが、この詳細については別の機会に報告したい。

表1. サイドイベント