第1回バイオセキュリティ研究会開催のお知らせ

感染症の脅威は、日常的に自然発生している感染症にとどまらず、突発的な新興感染症やパンデミック、大量破壊兵器としての生物兵器まで幅広いスペクトラムを有します。このような生物学的な脅威への社会全体での包括的な防衛対策を「バイオセキュリティ」と定義すれば、バイオセキュリティは、伝統的な学問領域の境界を逸脱しています。公衆衛生や人道支援といった視点で扱われていた自然発生的な感染症の流行への対処も、いまや国家や国際社会の安全保障上の優先課題として度々取り扱われます。他方、安全保障学・政治学の文脈で議論されてきた生物兵器管理の議論は、途上国支援等国際保健や公衆衛生の視点、あるいは科学技術の倫理形成といった議論が欠かせなくなっています。さらには、感染症対策に不可欠な病原体の共有と利益配分に関する議論のように、領域ごとに異なる価値観がお互いに矛盾した解決策を提示してしまう倒錯状況も問題を複雑化させています。

昨年7月より、我々はバイオセキュリティの諸問題を新たな時代の紛争領域と捉え、そのランドスケープを捉えることで問題を整理し、現実に即した解決策を提示する新たな学問領域のフレームワークを提示することを使命として、文部科学省科学研究費の支援を得た本研究グループを
立ち上げました。そして、既存の学問分野の逸脱をカバーするため、まずは一体的な討議空間
を形成するため、研究会を開催していくこととしました。多様な参加者を得て、これまでにない新しい枠組みで、グローバルなバイオセキュリティ向上に向けた議論を展開したいと考えております。

平成27年度文部科学省科学研究費基盤(B)特設分野研究
「グローバルな感染症等生物学的脅威を巡る新たな紛争領域の研究」
研究代表者 齋藤 智也

演題

バイオセキュリティのランドスケープ
齋藤 智也
国立保健医療科学院健康危機管理研究部 上席主任研究官

「バイオセキュリティ」という言葉は文脈によって様々な意味で使われている。生物学的脅威から何を守るのか、発生の文脈、対策のフェーズの三要素から意図するところを推測する必要がある。脅威の対象も時代とともに変化する。日本では、生物テロ対策から新型インフルエンザ対策、国際感染症対策へと関心が移ってきたが、ここ30年は公衆衛生側が主導してきた。一方、グローバルな視点では、公衆衛生側と安全保障側の取組みが共に接点を求めて、大きくランドスケープが変化しており、双方の視点から感染症脅威への対処フレームワークを理解する必要がある。また、紛争研究としての視点からバイオセキュリティの問題に言及する。

病原体検体共有と外交紛争
牧野 友彦
国立感染症研究所協力研究員・世界保健機関西太平洋事務局 医官

各国の外交的思惑が地球規模課題の解決を困難にしている事例は気候変動、軍縮など枚挙をいとわない。新興感染症も国境を越えて拡大する世界的脅威として新たな安全保障上の課題に上るようになったが、経済問題や外交における利害関係が錯綜して、迅速な対応のための地球規模での協力が進まない社会的ジレンマは新たな紛争と捉えなおすべきである。遺伝資源として病原体を利用した利益配分に関する不衡平が新興感染症対策への国際連携を妨げる現状につき、国際保健規則(IHR)と生物多様性条約(CBD)の関係性に注目し、名古屋議定書の下での透明な検体共有を促進する方法論を検証する。

合成生物学・遺伝子工学とデュアルユース
木賀 大介
東京工業大学大学院総合理工学研究科 准教授

生命情報の蓄積と生体高分子合成手段の進展により、生体高分子を試験管内や細胞内に組み合わせることを研究手段とする合成生物学が広まってきている。この研究分野では、細胞に外来遺伝子を導入する遺伝子「工学」のみならず、普遍遺伝暗号に規定される4塩基・20アミノ酸といった共通構造からの逸脱や、「人工細胞」を創りだすことも行われてはいる。遺伝子工学がイキアタリバッタリである、という評がなされることがあったが、合成生物学ではありえる生体分子の組み合わせの数が膨大であることから、カタログ化された生体高分子群を数理モデルに基づいて組み合わせてシステムをデザインする、という、標準化を基盤とする工学一般のプロセスの重要性が認識されている。このため、合成生物学には生物学と他の分野を融合した学際的な考え方が重要になっており、人材供給の場として、学生の国際コンテストiGEMが開かれている。本講演では、このプロセスが実際に進展しつつあること、および研究者の学会や学生コンテストにおけるデュアルユースに対する広報について紹介したい。

デュアルユースが懸念される研究と教育
四ノ宮 成祥
防衛医科大学校 分子生体制御学講座 教授

生命科学の進展に伴い、旧来の枠組みで考えられていた生物剤危険性の構図は大きく塗り替えられようとしている。遺伝子工学技術は微生物に人為的な可塑性を与えてきたが、近年の合成生物学や逆遺伝学の技術発展は単純なRisk-Benefit解析では解決できない機能獲得研究(Gain of Function Research)という新たな命題を我々に投げかけている。また、急速に研究が加速しているゲノム編集技術も、デュアルユース性を考慮せざるを得ない倫理的問題がすぐ目の前に提示されている。本講演では、これらの問題の概略を示しつつ、研究者教育など問題解決に向けていくつか考慮すべき命題に言及する。

開催日時と場所

平成28325日(金)13:30~16:30
(13:15 開場・受付開始)
イイノホール&カンファレンスセンター
Room C
東京都千代田区内幸町2−1−1 飯野ビルディング4F

参加申し込み

ご所属・氏名・連絡先(メールアドレス)を

seminar(a)biosecurity.jp
*(a)は@に変換してください

に3/22までにお送りください。定員(50名)に達し次第締め切ります。

(3/24追記)
当日は10名程度まで追加受付が可能です。満席の際は登録済みの方を優先させていただきますのでご容赦ください。

(左:プログラム、右:フライヤー)

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第1回研究会フライヤー案